最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)3274号 判決 1958年6月19日
主文
原判決並びに第一審判決を破棄する。
被告人を懲役六月に処する。
但し四年間右刑の執行を猶予する。
第一、二、三審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人薬袋善次並びに被告人本人の各上告趣意は、いずれも、量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
しかし、職権をもって調査すると、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠に現われている本件犯罪の動機が主として雇主から依頼したものであること、その紹介した職業は、熊本県下の片田舎における瓦若しくは蒲鉾製造の職人又は農家の奉公人であること、被告人の犯罪経歴が道路交通取締法違反並びに失火罪によって罰金に処せられたに過ぎないこと、その他被告人の資産、家族数等諸般の情状に照らし、原判決の維持した第一審判決の科した懲役六月の実刑は、その刑の量定が甚しく不当であって、第一、二審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
よって、刑訴四一一条二号、四一三条但書に従い、主文第一項のとおりこれを破棄し、原審の維持した第一審判決の判示所為に対し法令を適用すると、有料の職業紹介事業を行った点は、職業安定法三二条一項、六四条一号に、業として他人の就業に介入して利益を得た点は、労働基準法六条、一一八条に該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条を適用し、犯情の重いと認める職業安定法違反の刑に従って処断すべく、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を主文第二項の刑に処し、情状刑の執行を猶予すべきものと認め同法二五条一項により主文第三項の期間刑の執行を猶予すべきものとし、第一審ないし当審の訴訟費用は、刑訴一八一条により主文第四項のとおり被告人に負担せしむべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)